ー自然の循環を取り戻す作業を体験してー
先日、鳥取県・大山で行われた、自然環境の整備活動に参加してきました。
今回の活動を通して強く感じたのは、
人の健康は、人の身体だけで完結しているわけではない
ということです。
人間の健康、地域の健康、自然環境の健康は、一つにつながっています。
土、水、植物、微生物、生きものたちの循環が健やかであること。
その延長線上に、私たち人間の暮らしや健康もあります。
近年、このような考え方はプラネタリーヘルスとも呼ばれています。
人間の健康だけでなく、地球環境全体の健康を一緒に考える視点です。
https://greenz.jp/2024/11/20/kirimura-risa/
このプラネタリーヘルスを鳥取大山で実践されている桐山さんの活動に参加してきました。
一見、自然に見える斜面の下にあったもの
案内された場所は、急斜面一面に雑草が生えている丘でした。
一見すると、自然に溶け込んでいるように見えます。
ところが実際には、雑草の下には網状のものが張り巡らされ、さらにその下には、 どこかから運ばれてきた不要土砂の山がありました。
このような処理は「アナコンダ法面」と言い、 土砂の崩れを防ぐため、また環境にも配慮した土木処理として行われるものだそうです。
しかし、現地でお話を聞く中で、そこには別の側面もあることを知りました。
「本来、雨水は土の中へゆっくり、深く染み込みます。
その水は地下を通り、川へ流れ、海へ向かい、また雲となり雨となって大地に戻ってきます。
手つかずの自然であれば、多少たくさんの雨が降っても、川の水は急激に増えにくく、 しかも川の水は清らかなままです。
しかし、土の表面が不自然に覆われ、土中深くへ入っていく水の浸透が妨げられると、雨水は土の表面を流れやすくなります。
その結果、急激に川へ水が流れ込み、土砂が混ざった大量の濁流なりやすくなる。」とのことです。
つまり、一見すると自然に馴染んでいるように見える斜面でも、 実は土と水の自然な循環が妨げられていることがあるのです。
神木の桜が知らせてくれたこと
その土砂の山の足元には、この地で神木とされる桜の木がありました。 その桜の幹には、苔やカビのようなものが多く見られ、弱っているように感じられました。
もちろん、原因を一つに決めつけることはできません。
けれど、斜面に降った雨水が土にしみ込まず、桜の木のまわりに流れ落ち、 溜まりやすくなっているとすれば、その影響でカビが生えやすくなり、 木が弱っている可能性もあるのかもしれません。
木だけを見れば、
「カビが生えている」
「弱っている」
という現象です。
しかし本当は、 その木を支える土、水、根、空気、微生物、周囲の生きものたちの循環が 崩れて起きていることかもしれません。
一つの現象を、単独の問題として見るのではなく、
多様な生きものたちの自然循環システムの中で理解する。
そして、その循環がもう一度働けるように補助する。
この視点は、鍼灸師として、人の身体を見るときにもとても大切だと感じました。
剥がす、分ける、自然に戻る道を作る
作業は、まず急斜面に張り巡らされた網を剥がすところから始まりました。
その網は、雑草の根と絡み合い、土に食い込み、簡単には剥がれません。
斜面での作業は足元も不安定で、想像以上に体力を使いました。
手で引っ張り、道具を使い、少しずつ少しずつ進めていきます。
そして剥がした後も終わりではありません。
次に、網、鉄の杭、雑草を分別します。 むき出しになった土に対して、水が土中へゆっくり戻っていけるように整えていきます。
大きな木の杭を土中深くへ垂直に差し込み、そこに横木を挟みます。
その隙間に腐葉土や小枝をしっかり入れ込み、最後に枯れ葉を乗せます。
これは、雨水が表面を一気に流れすぎず、土中へゆっくり染み込むための手助けです。
土砂はてんこ盛りで、すべてを運び出すことは現実的ではありません。
だからこそ、自然の力がもう一度働けるように、
水が大地に染み渡る仕組みを作り、
土の呼吸を助け、
微生物や植物が関わりやすい環境へ整えていく。
自然を人間の力で支配するのではなく、
自然の循環が戻るように手助けする。
今回の作業は、その実践でした。
終わる頃には汗びっしょりで、ヘトヘトです。
人間の都合で処理されたものを、 今度は自然を理解したうえで、 人間の手で自然の循環に戻してあげる。
それは、想像以上に大変な作業でした。
壊すこと、
捨てること、
見えない場所に押しやることは簡単です。
でも、それを自然に還すには、多くの時間と手間と、やはり人の力が必要なのだと実感しました。
鍼灸師として感じたこと
今回の体験は、体を動かすことで鍼灸師、治す側として深く身にして感じものがありました。
自然の生態系のバランスや循環を無視し、人間の都合や人工的な介入によって分断され、 崩れてしまったものを元に戻すには、大変な労力が必要です。
これは、人の身体でも同じ。
たとえば、加工食品の摂りすぎ、冷暖房の効いた室内ばかりで過ごすことなどから 自然や人とのつながりが薄れること。
こうした積み重ねによって、身体も少しずつ本来の循環を失い、 ケガや病気に起こす原因の一つになります。
本来の生命力を取り戻すには、
自然を観察するように、人の身体もよく観察すること。
知識と経験をもって、複雑なつながりを理解すること。
そして、必要なところに少しだけ手助けをすること。
さらに、再生する力、治癒する力を信じて、見守り待つこと。
今回の大山での作業を通して、自然も身体も、無理に変えるのではなく、
本来の巡りが戻るように手助けすることが大切なのだ
と改めて感じました。
自分たちの暮らしへ還って考える
大山で見た斜面の問題は、特別な場所だけの話ではありません。
自分たちの暮らしに還って考えると、
日々のゴミの出し方、物の買い方、使い捨ての習慣も、同じ問題につながっています。
私たちはゴミを出すと、それで終わったように感じます。
けれど、そのゴミはどこかへ運ばれ、燃やされ、埋められ、処理されています。 自分の目の前から消えただけで、地球上から消えたわけではありません。
今回の体験を通して、
自分たちの暮らしの中で、自然の循環を止めているものはないか?
と考えるようになりました。
まずは、知ること。
そして、できるところから少しずつ変えていくこと。
ゴミの出し方、
物の選び方、
自然との関わり方。
小さなことでも、循環を意識することから始められるのだと思います。
私自身も小さなことですが、
生ゴミはしっかり水を切ってコンポストへ。
ドリップ後のコーヒーの粉を屋外で乾かしてから捨てる
環境にやさしい洗剤を選ぶ
などを始めています。
ゴミを出したその先の自然を考え、行動する。
まずは、そんな小さな一歩からでよいのだと思います。
自然の循環から、人とのつながりを考える
今回の体験は、自然環境だけでなく、家族、職場、地域での人との関わり方にも通じると感じました。 自然界では、多種多様な生きものが混ざり合い、循環し、バランスを保っています。
土、水、木、草、虫、鳥、菌、光。
それぞれが役割を持ち、関わり、全体として調和を保ち、命を巡らせ、つないでいる。
人の集まりも同じだと思います。
誰か一人が頑張りすぎるのではなく、
強制し、統制するのでもなく、
それぞれの役割や得意なことを活かし、
弱いところは補い合い、
全体として一つになる。
自然循環を学ぶことは、 地域や組織のあり方、みんなが活きやすい世界について考えるきっかけにもつながるのではないでしょうか。
おわりに
今回の大山での体験は、自然環境について学ぶだけでなく、
自分の身体、暮らし方、人との関わり方を見直す時間になりました。
実際に土に触れ、汗をかき、自然の循環を取り戻す作業を体験する。
その中で、私たちの健康は、身体の中だけで完結するものではなく、 土、水、空気、植物、微生物、地域、暮らしと深くつながっているのだと感じました。
まさしく東洋医学!
人も自然も、一つにつながっていること。
プラネタリーヘルス。
鍼灸の仕事にも、日々の暮らしにも、この視点を大切にしていきたいと思います。


